「あの、見てもいいですか?
成宮くんの絵」
「あぁ。どうせ明日には全部飾るからな」
「今、見たいんです」
でも、だからこそ、こんなに早く終わっているのは意外だと思った。
だって、成宮くんはいつも絵に一直線で。
一枚の絵を、ほんの少しの手も抜かず、一生懸命に完成させているイメージだったから。
ドキドキしながら、成宮くんの絵を手に取って、ゆっくりと裏返す。
「………………」
「すごいよなあ。
先生はもう、何も教えられないレベルだ」
ああ。やっぱり、そうなんだ。
天才と凡人って。こんなに違うんだ。
私の30分の絵は、まだまだ完成には程遠くて。
なんとか見られる形になった、なんて程度なのに。
成宮くんのそれは、まごうことなき薔薇そのものだった。
薔薇だけじゃない。
ガラス瓶の透明感。机の光沢。花びらの質感まで、何もかもが、私がさっきまで見ていた空間そのものだ。
……なんでだろう?
同じ、モノクロの絵なのに。
なんで薔薇が、こんなに赤く見えるの?
日の光に照らされた薔薇は、みずみずしく輝いて見えて。
本物よりも、綺麗に見えてしまう。
「本当に……すごいですね」
私はそれくらいしか言うことができなくて、力なく成宮くんの絵をテーブルに裏返しに置きなおした。
成宮くんは、やっぱり手を抜いていなかった。
全力を注いで描いて、あの時間で終わるんだ。
手抜きだから早いとか、そういうことじゃなくて。
描き終わってしまったから、早いんだね。