「そう。勘違いさせたならごめん。
……俺、花の絵描くの好きだから、そういうの結構知ってて」
「……たしかに、花ばっかり描いてるよね」
「……?知ってるの?」
学校中知っているか、と言われるとどうかはわからないけど。
彼は、自分が校内で結構有名なのを知らないのだろうか。
少なくとも、この美術部で知らない人は絶対にいないと思う。
美術部じゃなくても、同学年なら噂で知っているという人が大半だろう。
もう何度もコンクールで賞を取っているし、さらにイケメンときた。
……そりゃあ、有名にもなるよね。
体育館で表彰されていた時に、周りの人が「あの人イケメンじゃない?」と囁き合っていたのを覚えている。
……と、いうか。
今の言い草といい、さっきの職員室での出来事といい、何かおかしくない……?
違和感を感じて、やっと心臓が落ち着いてきた私は、ゆっくりと成宮くんを振り返る。
きょとんとした成宮くんと目があった。
それから、視線を少しずつ下にずらしていく。
……成宮くんの手には、今さっき準備したばかりの私の絵の具が握られていた。
『エリカ』と、1つ1つに名前が書いてあるやつだ。