「今日の課題、フルーツのスケッチだってさ」


「了解、ありがと」



高ちゃんはみんなの視線の中心にある様々なフルーツが入ったバスケットを指差すと、ウィンクを一つ残して席に戻っていった。



美術室中を見渡してみたけれど、先ほど告白をしていたあの女の子の姿は見えない。


そりゃあそうだよね。


あの後2人がどんなやり取りをしたのかは知らないけれど、どれほど優しい言い回しをされたとしても、振られたその日に同じ教室で活動するなんて私なら絶対無理だもん。



対してセイジは、やっぱりいつものようにそこにいて、真剣に課題に取り組んでいるようだった。


こっちも予想通り。


告白は振る方も辛いと聞いたことがあるけれど、それでもセイジが絵から離れる姿は全く想像ができなかった。



想像通りの姿に半ば安心しながらその姿を眺めていると、おもむろにセイジが顔を上げ、バチリと目があう。


学校で目が合うことなんてほとんどないから、単純な私の心臓はドキッと音を立てた。


すると、セイジは少し笑って、ちょいちょいと控えめに手招きをしてくる。




えぇ?何々?


温室だったら声に出したであろうその言葉を、グッと飲み込む。


小さな仕草だったけれど、その仕草一つで私はもう周りの音なんて聞こえなくなっていて、まるで美術室には私とセイジしかいないんじゃないかと錯覚を覚えるほどだった。


イーゼルの周りに広げようとしていた道具を一旦横に置いて、誘われるようにセイジの方に歩いていく。