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「ちょっとエリカ!随分遅かったじゃん!
何かあったんじゃないかって心配したんだからね!?」



あれからしばらくして。



ゴミ捨てが終わってもなかなか美術部に行く気になれなかった私は、人がまばらになった校舎をあてもなくフラフラと歩き回り、小一時間ほどが経ってからようやく鞄を回収して美術室に入った。



だって、美術室には絶対にセイジがいる。


少しだけでも、気持ちを整理する時間が欲しかった。



「ごめんごめん。急に学校探索したくなっちゃって」


「はあ?2年にもなって?」


「それがさ高ちゃん。旧理科室の扉にめちゃめちゃ綺麗なハート見つけちゃった」


「何見つけてんのよ……」



誰かの落書きか、それとも何かの跡か、絶妙なハート模様が浮かび上がっている扉の写真をスマホで見せると、高ちゃんは呆れたようにため息をついた。



……大丈夫。いつもの私だ。


校内をぶらぶらしているうちに、気持ちはだいぶ落ち着いた。



そうだ。私は告白する気なんて元からなかった。


つまり、私とセイジがこれ以上発展する可能性は元々ない。


そう考えると、セイジが誰とも付き合う気がないというのは、むしろ朗報かもしれないと思った。


誰もセイジの特別にはなれないのなら、私の立場が脅かされることもきっとない。


私はこの先、友達として、共同制作者として、そばにいることができるのだ。


それだけで、十分じゃないか。


そう思ったら、とても楽になった。