どくん、どくんと心臓が脈打つ。
立ち聞きなんてよくない、早く立ち去らなければ、と頭ではわかっているのに、足に根っこでも生えてしまったのかと思うくらいに私の体は動かなかった。
「それからずっと、気が付いたらセイジくんを目で追うようになってて。
今年、同じクラスだって知った時は、嬉しくて飛び上がりそうだった」
セイジは、何も言わない。
ただ真剣に、誠実に、彼女の気持ちを受け止めている。
「私、もっとセイジくんのことが知りたい。
セイジくんと一緒にいたい。
そばにいて、見ていたい。
だから……私と付き合ってくれませんか」
言い切った彼女は、右手をセイジに差し出した。
その他は微かに震えていて、彼女の勇気がこちらにまで伝わってくるようだった。
真っ直ぐ見ていられなくなって、視線を下に逸らす。
ただ、そこから立ち去ることはできなかった。
……もしOKしてしまったらどうしよう。
それはあの日曜日の終わりを意味する。
あの子だって、美術部だ。
もしかしたら、見方さえ教えればあの子も自分の世界を見ることができて、そしてそれを私なんかよりもっと上手に表現できるかもしれない。
そうしたら、今の私のポジションは簡単にあの子のものになるのだろう。
あの子はきっと、私みたいに穿った考え方で他人に嫉妬したり、勝手に決めつけて線を引いたりもしない。
私みたいな臆病者とは違って、彼女は勇気を出す術を知っている。
その勇気がセイジに届くことだって、もしかしたら。
そう思うと、影に隠れているだけなのに手が震えた。
ぎゅうっと胸が苦しくなって、泣きそうになる。