「好きです」



今日一日の授業を終え、掃除の時間も終わりがけで、ちらほらと部活に向かう人や帰路につく人も見かける、そんな時間帯。


ちょうどゴミ捨て当番の日だった私は、教室の掃除が終わり、ゴミをまとめた袋を片手に中庭に差し掛かった頃、進行方向から聞こえてきたその声に足を止めることになった。


中庭には2人の人影。


ただならぬ雰囲気に、私の頭には“邪魔をしてはいけない”という警報が鳴り響き、咄嗟に物陰に身を隠した。



「一年生の春、初めて見た時から、ずっとかっこいいなと思ってて」



緊張を含んで少し震えた女の子の声が、言葉を紡ぐ。



……って、だめだめ、これじゃあ盗み聞きだよ。


ちょっと遠回りになるけど、中庭を通らないルートでゴミ捨て場に行こう。


気になる気持ちよりも聞き耳を立てる罪悪感が勝ち、そっとその場を立ち去ろうとした、その時。



「美術室でこのストラップを落として困ってた時、セイジくんがどこからか見つけてきてくれたのが、本当に嬉しかった」



“セイジくん”。


その名前が聞こえてきて、つい振り返ってしまった。



さっきはチラッとしか見ていなかった男女の姿を、はっきりと認識する。



中庭にいたのは、こないだ美術部で友達に『告白しちゃえ』と背中を押されていたあの女の子と、向かい合うようにして立っているセイジだった。