「ふふ、私もね、これはこれでいいって思ったの。
セイジの世界は私には描けないけど、それでいいって」
セイジの目を見て、嘘偽りなくそう言う。
いつかセイジのマーガレットを真似した時の、必死に違う世界を追い求める私はもういない。
私には私の世界がある。
私はもう感情の落とし所を見つけたから、上手くなくても、才能がなくても、その世界を楽しく表現できればそれでいいと思った。
人と人が違うのは当たり前だから、私は私にできることをすれば良い。
そして、このクレオメは、それ以上に。
「だってね、この世界はきっと、セイジと私にしか生み出せないって思うから。
2人だけの、特別な世界なんだよ」
だから、この絵はこれで完成だし、描きあげた時はとても満足した。
セイジもそう思ってくれるかはちょっとだけ怖かったけれど、セイジがクレオメに向けていた熱い目線が、その第一声の言い表せない感動をはらんだ声が、みるみるうちにその不安を吹き飛ばしていった。
本当は『セイジのクレオメになれた?』なんて意地悪なことを聞かなくても、セイジの答えはわかっていた。
セイジは私の言葉を聞いて口を開け、一度閉じて、また開けてから、
「うん」
と、温室にあるどの花よりも綺麗に笑った。