「クレオメ、完成した?」



そんな淡い期待をさせた張本人に声をかけられ、ドキンと心臓が跳ねる。



「うん、さっきね」


上擦りそうになる声を抑えて、どうにか平静を装った。



「見てもいい?」


「もちろん」



私の声を聞くや否や、セイジはクレオメを覗き込む。


セイジが描いていた時は淡いピンクと黄色だけが置かれていたクレオメは、私の手によって暗めの赤が足され、ピンクと黄色もたくさん描き足したことで濃淡が深くなり、随分と雰囲気が変わっていた。



「どう、かな」



クレオメを真剣に見ている後ろから、少しだけ緊張して声をかける。



「うん……うん。すごいね、面白い」



セイジは振り向くことなく、小さくそう答えた。



「セイジのクレオメになれた?」


「それは、えぇと……ごめん、俺のとは違うけど」


「はぁ〜!やっぱりかぁ」


「でも!」



息を吐きながら私が大きく空を仰ぐと、セイジはぐいっと身を乗り出してこちらを振り返った。


その目はまた、クリスマスプレゼントを開ける子供のように、キラキラと曇りなく輝いている。



「でも、なんだろう、なんて言えばいいのかな。
確実に俺の世界も見えて……エリカの世界も混ざってて、新しい世界が生まれてるんだ。
1人じゃ見えない世界。俺、この感覚、好きだ」



正直、わかってた。


描きながら、きっとこれはセイジの世界とは違うのだろうと。


やっぱりセイジが私の世界を表現できるのは奇跡に近くて、それはセイジの才能が引き起こしていることで、そして私にはその才能はない。


私にセイジの世界が見えることはないのだ。



ただ、セイジが言ったように、この描き方で新しい世界が見えたのは、私も同じだった。