「いいよ、失敗したって。
俺だって、初めてエリカのマーガレットを描いた時は、きっと失敗するって思ってたんだから」


「えっ!?失敗すると思ってたの!?」


「そうだよ。上手くいくかわからないって言わなかったっけ?」


「そうだっけ……」


「だから、エリカにそのものだって言われた時は、嬉しかったけど、それ以上にびっくりしたんだ。
俺が見てたのは、本当にエリカのマーガレットだったんだって。
世界の共有なんて、夢のまた夢だと思ってたから」



セイジが満足げにふんわりと笑う。



いつもたくさんの世界を次々に生み出していくセイジは、“描けないかも”なんて不安とは縁のないものに見えていた。


でも、違う。セイジだって人間だ。


やったことのないこと、描いたことのないもの、そんなのが最初から完璧に上手くいくなんて思っていない。



それでもセイジは、新しいことに挑戦するし、迷っても道を探している。


私のマーガレットを描いていた時、確かにセイジの筆の進みがいつもより何倍も遅かったことが、今になって思い返された。



「きっとできるとか、そういうことは言えないけど。
俺はもともと、自分の世界を見れる人だって俺以外いないのかもしれないって思ってたんだ。
それが見れるエリカなら、もしかしたらって、思うんだ」



そういえば、そんなことを言っていた気がする。


他の人にも世界の見方を教えたことがあるけれど、本当に見えたのは私が初めてだって。



……それなら、もしかしたらできるのかもしれない。


それに、できなくったってセイジは責めたりしない。



「……わかった。やってみる!」


「うん。楽しみにしてる」



そう言って、セイジはクロッキー帳を広げ始める。



前に見られてると描きづらいと言った時から、セイジは必要以上に私の描きかけの絵は見ないようにしてくれているのだ。



よし……がんばろう。



覚悟を決めて気合いを入れ直した私は、頬をパチンと両手で叩いて思考をリセットし、キャンバスに向き合うのだった。