「こうしよう」



そんな私の考えとは裏腹に、しばらく考えた様子のセイジはとんでもない提案をしてきた。




「このクレオメ、エリカが完成させて?」


「……………えぇっ!?!?!?」




描き途中のクレオメの続きを私が描けと、セイジはキラキラとした目で言う。



セイジの世界を想像して描くのさえ、セイジの世界を壊すに値すると思った。だから怖かった。



それが描き途中の絵に私が加筆する?????


物理的にセイジの世界を壊すってことでは!?!?!?



「いやっ、無理無理無理!」


「なんで」


「なんでって!私なんかが描いたらそんなの台無しになるに決まって———」


「———ならない!」



私が言い終わる前に、いつもより大きなセイジの声が被った。



その顔は至って真剣で、お世辞を言っているわけでもなければ、気休めを言っているわけでもないように見えた。




「ならない。大丈夫」


「でも……」


「俺は、エリカが完成させるクレオメが見たい」



まっすぐな目が私を貫く。


私が何もいえなくなったのを見て、やがてその目は少しイタズラっぽく細められた。




「それに、俺、もうこれ以上描きたくなくなっちゃったから。
エリカが描かなきゃ、このクレオメは一生未完成なままだよ」


「えぇ!?」


「あーあ、クレオメ、可哀想だな。
完成しないとどこにも飾れないしな」



ピンクと黄色が巧妙に使われた、でもまだ大まかに色を置いただけで描き込まれてはいない描き始めのクレオメ。



陽の光に照らされた白いクレオメが、ゆらゆらと“完成させてよ”と囁いているように見えた。