「……私なんかが描けるかな……」


「…………っ」



つい弱音を漏らした私に、セイジは何か言いたげに口を開く。


しかし、その先は言葉にならなかったのか、一呼吸置いてから



「わからないけど、きっと楽しいと思う」



とだけ言って、私の右手を両手で握った。



上目遣いで覗いてくるその目は、どこか懇願しているような、切望しているような、何かを期待しているような目だった。



たまに、この人は自分の容姿の良さをわかっていて、私の気持ちをわかっていて、こういうことをしているんじゃないかと疑いたくなる時がある。


躊躇なく触れてくるのは、パーソナルスペースなんてフル無視で近付いてくるのは、ずるい。



「……そうだね。描いてみようかな」


「やった」


「でも、セイジのやり方では多分無理だよ。
私、セイジが絵を描いてるところはたくさん見てきたし、セイジの世界を想像してみたこともあるけど、完成した絵と同じ想像ができたこと一回もないもん」



絵の具を選ぶ時だってそうだ。


なんとなくこの色が合いそうだなと思って渡した絵の具を、セイジはいつも予想以上に活かして使い出す。


私の予想通りだったことも、それ以下だったこともない。


絶対に私の想像を上回ってくる、それがセイジなのだ。