今までセイジと過ごしてきて……何度か、こういうセイジの複雑そうな顔とか、言動とかには遭遇してきた。
だから、過去に何かあったんだろうってことくらいは、もうわかる。
でも、それに踏み込む勇気は、私にはなかった。
だってセイジは、自分が伝えたいと思ったことは、意外とはっきり言うタイプなんだもん。
そんな人が言わないってことは、言いたくないってことでしょ?
それなら……私は、聞かない。
ううん、聞けないんだ。
セイジとの関係が……壊れてしまうのが、怖いから。
「セイジ。そろそろ上戻ろう?」
「うん?もういいの?」
「うん。一気に全部見ちゃうのは、もったいないかなって思って」
「そっか。じゃあ、来たくなったらまたいつでも言って」
「うん!」
言いながら、セイジは慣れた手つきでアゲラタムの絵を元の場所に戻して、部屋の電気を消す。
また、ちょくちょく見に来ようっと。
こんなにたくさん作品があれば、きっと花以外がモチーフの絵もたくさん見つかるだろうし。
帰りの階段は、セイジの少し前を歩いた。
セイジが手を伸ばしても、少し届かないような距離で。
……セイジに触れられるのは、本当のことを言えば嬉しい。
でも、ドキドキしすぎて、思わず口が滑っちゃいそうになる。
『どうして私に触れるの?』
『私のこと……どう思ってるの?』
……そんなことを思ってしまう欲張りな私には、このくらいの距離感が丁度いいんだ。