「……セイジって、いつから絵、描いてるの?」
「いつ?うーん……。気付いた時には、もう」
「それから毎日?」
「うん。描かなかった時は……あるけど、その時期以外はずっとだね。
その時期のあとは酷くってさ、数ヶ月描かなかったらこんなに描けなくなるんだって、ちょっと怖くなった」
苦笑して繋いだ手をそっと離したセイジが、ここらへんかな……と部屋の右側の方を探る。
「努力、してるんだね……」
「努力?……では、ないよ。俺は好きなことをしているだけ。
……あ、あった、これ。数ヶ月ぶりに描いた時のやつ。ほら、下手くそでしょ」
おもむろに差し出された一枚のキャンバスには、見たこともない紫色の花が描かれていた。
……花、だよね?
花びら……のようなものが紐のように細くて、茎の先に付いているから多分花なんだろうけど、ぱっと見じゃ花には見えない花だ。
その絵は下手というほど下手ではない。
少なくとも、今の私より何倍も上手い。
でも、セイジの絵にしては、なんだか普通すぎる。
いつもセイジの絵には必ず宿る楽しさが、この絵には見えないような気がした。
「これは花……だよね?なんの花?」
「アゲラタムっていうんだ。見たことない?」
こくりと頷く。
「花言葉は、深い信頼。
……兄さんとその彼女を見て描いたんだ」
「へぇ……それ聞くと、なんか素敵だね」
セイジは私の感想には何も答えず、ただフッと、少しだけ笑みをこぼした。