ぼうっと本物のマーガレットを見つめながらそう言ったセイジは、そのまま動きを止める。
これは……想像モードだ。
自分の世界のものやそのまま見えているものを描いているときは、サラサラと描くけれど。
私がここに来るようになってから何度か描いていた、想像の世界のものを想像するときは、大体こんな感じで想像モードに入って固まっていた。
セイジのことは、だいぶわかってきたつもりだ。
だから、動かなさすぎて心配になることも、また食事を忘れて倒れるんじゃないかと不安になることも、もうない。
こういう時は放っておいて大丈夫。
……そう思いながらも目が離せないのは、私の気持ちが原因だろうか。
しばらく待っていると、やっとピクリと指を動かしたセイジが、いきなりパッとこっちを向いた。
バチリと目が合う。
「!」
そして、おもむろにこちらに手を伸ばし、手の届く範囲にいた私の手を優しく握った。
ビクッと、自分でも手が震えたのがわかる。
セイジの瞳ごしに、驚きに目を見開いた自分が見えた。
そんな私を気に留めず、セイジはすぐに手を離してふんわりと微笑み、一人マーガレットのキャンバスの前に歩いていく。
なに……今の?
心臓がバクバクうるさい。
手が。触れた手が、まだじんわりと熱を持っている気がする。