そして唯は並木主任にお礼を言って車を発進させようとしたのだが、突然並木主任が助手席のドアを開け、乗り込んできた。


並木主任はタクシーで帰るものだと思っていた唯は驚き戸惑う。


けれど、よくよく考えてみれば、私を家に送った後はふたりっきり。もしかしたら誘われるかも……と期待で胸が膨らませアクセルを踏み込んだのだが、彼の口から出た言葉は『会社に行ってくれ』だった。


どうして会社なんだろうって思いながら言われた通り会社の駐車場に行くと、並木主任が自分の社用車で私を送ると言い出した。


『はぁ? って思ったわよ。だからこのまま私が紬を家まで送るって言ったんだけど、私の車には紬の自転車は乗らないからって、社用車に自転車とアンタを乗せて帰っちゃったのよ』


あぁ、そういうことか……


窓際に駆け寄り閉まっていた部屋のカーテンを開けると、玄関前に並木主任が使っている社用車が停まっているのが見えた。


だからウチでビールを飲んだ並木主任は運転ができないって言ったのか……


やっと状況が呑み込め納得するが、唯の声は沈んだままだ。


『紬を乗せて走ってく社用車見て思ったんだ……並木主任は紬のことが好きなんじゃないかって』

「えぇっ、並木主任が私を?」

『絶対そうだよ。紬の話しをしてる時の並木主任、凄く楽しそうだったもん。だからさ、一晩考えて決心したの……並木主任のことは諦めようって……』


その言葉を聞き、複雑な気持ちになった。