それでもしつこく呼び出し音を鳴らし続けていると、やっと唯が電話に出た。でも、聞こえてきた声は低く掠れていて元気がない。
「あ、ごめん。まだ寝てた?」
『……うぅん。その反対。眠れなくてね、昨日からずっと起きてる』
「えっ? 眠れなかったって……何かあったの?」
『何かあったかですって? ったく、眠れなかった原因は、紬……アンタだよ』
「えっ、私?」
唯とはバイオコーポレーションに入社以来、五年の付き合いになるが、こんな風に本気で突っ掛かってくるのは初めて。
だから、昨夜、酔っぱらって唯を怒らせるような何かとんでもないことをしてしまったんじゃないかと冷や汗が出る。で、その不機嫌な理由を恐る恐る聞いてみると唯が吐き捨てるように言った。
『失恋だよ。失恋!』
「失恋って……並木主任に告白したの?」
『まさか……告る前に撃沈したんだよ』
唯が言うには、昨夜、私が酔い潰れて眠ってしまったので、並木主任に自分をアピールする絶好のチャンスだと思い喜んだのだが……
『話題は紬のことばっかで、めっちゃつまんなかった』
並木主任は、唯に私のことを根掘り葉掘り聞き、期待していたような色っぽい話しにはならなかったそうだ。
で、そろそろ帰ろうということになり、私を起こそうとしたが全然起きないので並木主任が私をおぶって駐車場まで行き、唯の車に乗せてくれた。
「えっ、並木主任が私をおぶってくれたの?」
『そうだよ。並木主任の背中で気持ち良さそうな顔しちゃってさぁ~ホント、ムカつく』
「……ご、ごめん」
怒り心頭の唯に、ただただ、平謝り。