唯に電話してお礼を言おうと思ったが、今はこのカラカラに乾いた喉を潤すのが先。というワケで、なんとか起き上がり、フラフラしながら部屋を出て一階へ向かった。


壁を伝いながら階段を下り、居間のドアを開けるといきなり母親の甲高い笑い声が聞こえ、それが二日酔の頭に響いて脳ミソがネジれるような激痛が走る。


「くぅ~朝っぱらからデカい声出さないでよ……」


頭を抱え文句を言うと翔馬が間髪入れず、もう昼だと切り返してきた。


「えっ……もうお昼?」


驚いて顔を上げた次の瞬間、ここに居るはずのない人物の姿が視界に入り、慌てて両手で目を擦る。


幻覚が見えるってことは、私、まだ酔っぱらっているのかな?


しかしどんなに目を擦っても、激しく瞬きしても、その幻覚が消えることはなかった。


「よく寝るヤツだな。もう昼飯食っちまったぞ」

「うそ……幻覚が喋った……」


私の言葉に母親と翔馬が顔を見合わせ大爆笑。


「姉貴、寝ぼけてるんじゃないのか?」

「えっ、だって……ほら……」


震える指で幻覚を指差すと、翔馬が「姉貴の彼氏だろ?」って言うから、目が点になる。


「……彼氏?」

「そっ! あの靴をプレゼントしてくれたのは、ここに居る並木さんなんだってな。昨日、酔っぱらって寝込んじまった姉貴をわざわざ家まで送って来てくれたんだぞ。ちゃんと礼言えよ」


えっ? 並木主任が? 唯じゃなかったの? いや、取りあえずそのことはいい。私が知りたいのは、昨夜、私をこの家に送り届けてくれた並木主任が、どうして一夜明けた今日も私の家に居て、昼ご飯を食べているのかということ。