少しは反省したのかと思ったら……「あぁ、悪い悪い。コイツがキスをせがむからつい……」ってまたさっと同じセリフで私のせいにする。


「いい加減にしてください! いつ私がキスをせがんだんですか?」

「んっ? 目を閉じて唇を尖らせていたのはどこの誰だ?」

「うぐっ……」


痛いところを突かれぐうの音も出ない。そしてほんの一瞬でも彼を受け入れキスしようとした自分が許せなかった。


並木主任には彼女が居るんだよ。なのに私ったら……どうかしている。それより、彼女が居るのに平気で他の女とキスする並木主任も、私以上にどうかしてる。


モヤモヤした気持ちのまま唯が待つ座敷に戻ると既に土鍋の中の河豚雑炊は空っぽで、イチゴのシャーベットが座卓の上に並んでいた。


「唯、雑炊全部食べたの?」

「うん、雑炊がふやけてベタベタになっちゃったら美味しくないでしょ? 紬がなかなか戻らないから無理して食べたんだよ。てか、並木主任帰ってなかったんだね。良かった~」


ホッとした様子の唯は、並木主任のご機嫌を取るのに一生懸命で、私のことはほったらかし。なので私はイチゴのシャーベットを肴に冷たくなったヒレ酒を手酌でぐびぐび飲んでいた。


別に唯に相手にされないから拗ねて酒を煽っているワケじゃない。


唯があまりにも並木主任にご執心なものだから、つい気か引けて彼女の存在を言いそびれてしまったことへの後悔……


そして、たとえ不可抗力だったとしても、親友の唯が好きな並木主任とキスしてしまったという後ろめたさから飲まずにはいられなかったんだ。