「でもな、男慣れしてるって豪語していた割には、キス、ど下手だな」

「し、失礼な……それはきっと、並木主任のリードが下手っぴだったからですよ」

「なっ、俺が悪いって言うのか?」

「キスの仕方、もっと勉強した方がいいんじゃないですか?」


その一言が火に油を注いでしまったようで、並木主任の目付きが変わり、凄い勢いで壁に押しつけられる。


「言ってくれるじゃないか。それならもう手加減はしない。お前が我慢できなくなってその先をねだるような、そんな気持ちのいいキスしてやるよ」


ひぃっ! 火に油どころか、爆弾を投じてしまった。


スイッチが入って本気モードになった並木主任の切れ長の瞳は艶っぽくて男の色気ムンムンだ。


「な、並木主任……落ち着いてください」


しかし並木主任はその叫びを完全無視。素早く私の腰に手をまわし、もう片方の手で後頭部を鷲掴みにする。


そしてフッと小さく笑ったと思ったら、妖艶なフェロモンを大量放出させ、ゆっくり顔を近付けてきた。それは、男性に免疫のない私にでも分かるくらい強烈で痺れるような蜜色のフェロモン。


あぁ……そんな目で見つめられたら、私、もう……


並木主任が放つフェロモンに私の理性と貞操観念は吹っ飛び、自ら顔を上げ瞼を閉じていた……だかその時、静かな廊下に豪快な咳払いが響いたんだ。


「お客様、そういうことは他所でやって頂けませんか?」


見れば、明らかに不機嫌な顔をした女将がこっちを睨んでいる。さすがに並木主任も女将に一喝されマズいと思ったのだろう。私を放してペコリと頭を下げた。