しどろもどろになった唯が助けを求めるようにこっちを見るから、私まで焦ってしまい咄嗟に出た言葉が「噂で聞いたんです」だった。
「噂ねぇ……」
「は、はい。噂ですっ!」
栗山さんに聞いたってことがバレれば、彼女に迷惑が掛かる。
「ふーん……まぁいい。で、その件に関して他にどんな噂が流れているんだ?」
しつこく追及されたけれど、私達が知っているのは本当にそれだけ。だから正直にそう言ったのに、並木主任は不機嫌な顔で探るように私達を見つめている。
そんな状態が続いた後、並木主任が突然立ち上がり、トイレに行くと言って部屋を出て行ってしまった。
その様子を見た唯が、余計なことを言って並木主任を怒らせてしまったと畳に突っ伏しのた打ち回っている。が、急に唯が「あぁっ!」と叫び、飛び起きた。
「ねぇ、もしかして例の乳酸菌の研究していたのって、並木主任じゃない?」
「えっ?」
「もしそうなら、一番悔しい思いをしているのは並木主任のはず。せっかく商品化にまでこぎ着けたのに、鳶に油揚げをさらわれたようなものだもの」
「そっか、だからあんなに機嫌が悪かったのか……」
私達は顔を見合わせ大きく頷く。そこへ熱々の河豚雑炊が運ばれてきた。
「並木主任遅いね」
「うん、せっかくの雑炊が冷めちゃう」
すると唯が、並木主任が怒って帰ってしまったんじゃないかと半泣きで騒ぎ出すから私まで不安になり、探してくると部屋を出たのだが、どこを探せばいいのか分からない。
取りあえずトイレを覗いてみるか……