一応、並木主任は上司だから上座に、私と唯は下座に並んで座って緊張気味に室内を見渡していると、並木主任がお品書きも見ずに「河豚(ふぐ)頼むよ」なんて言うから、おしぼりを持つ手が止まる。


河豚って……あの河豚だよね? 並木主任ったら全く遠慮がない。でもまぁ、十万円のヒールを買うことを思えば、全然安いか……


そう自分に言い聞かせ無理やり笑顔を作る。そこへ土瓶に入った河豚のヒレ酒が三人分運ばれてきてた。しかし残念ながら車を運転する唯は飲むことができない。なので渋々烏龍茶を注文したのだが、なぜか並木主任まで烏龍茶を頼んでいる。


「並木主任、お酒飲めないんですか?」

「いや、飲めるが今日はやめておく」


えっ……もしかして河豚を注文した時、私の顔が引きつっていたのに気付いて遠慮してるの?


なんだか申し訳ない気分になり、お酒を勧めたが、結局、並木主任は烏龍茶を頼み、私がひとりでヒレ酒を独占することになった。


日本酒はそれほど好きじゃない。けれど、香ばしい香りのヒレ酒が思いの外美味しくて、おまけに、先付に出された煮凝りとの相性も抜群。


河豚ってこんなに美味しかったんだ……


感動しつつ、椀物や焼き物も平らげ、河豚刺しに舌鼓を打つ。が、私はその間、唯に気を使って殆ど喋らず、ふたりの会話を聞いていた。


すると冗舌になった唯が、さっき車の中で話していた商品化できなくなったサプリメントのことをポロっと言ってしまったんだ。途端に並木主任の目付きが変わる。


「おい、どうしてそのことを知っているんだ?」