バイオコーポレーションは、数社の海外企業と業務提携や合同研究をしている。なので、研究所に海外企業が視察に来るのは特に珍しいことではない。


それと、所長は出張が多くあまり研究所に居ないので、視察企業への対応や接待は英語が堪能な山辺部長の仕事になっていた。


午後から山辺部長の姿を見なかったのはそういうことだったのだと納得していると、唯が何かを思い出したように声を上げる。


「そうそう、外人さんで思い出した。昨日、久しぶりに同期の栗山 理絵(くりやま りえ)さんからラインがきたのよ。でね、ヤバい話し聞いちゃった」


バイオコーポレーションでは、新卒の新入社員は全員東京本社で一週間の研修を受けることになっていて、地方研究所勤務の私や唯も本社で研修を受けていた。そこで仲良くなったのが、本社の秘書課に配属された栗山理絵だ。


「ヤバい話し?」

「うん、半年前、ウチの研究所が免疫力を上げる乳酸菌を発見して商品化が決まっていたのがあったじゃない」

「あぁ、とてもデリケートな乳酸菌で体内に入ると死滅してしまうから商品化に苦労してるってアレ?」


もちろんこの情報は極秘。たとえ家族でも情報を漏らしてはいけない。と言っても、私達一般社員に詳しい内容が知らされることはなく、商品化が決まってようやく情報が公開される。


「そう、その問題がやっと解決して商品化に向けて特許申請したらしいんだけど、既に海外の企業がウチの会社と全く同じ製法で特許を取得していたらいしよ」


それはつまり、バイオコーポレーションはその製法を使って商品化することができなくなってしまったということ。