『今日、仕事が終わったら、飯食いに行くぞ。店は予約しておいた。六時半に現地集合だ』

「えっ……」


並木主任が指定してきたのは、この街では結構有名な老舗の高級料亭。この時点で必死にリサーチしてお洒落なイタリアンレストランをチョイスしていた唯の苦労は水の泡。


それなのに唯は文句一つ言わず、並木主任とご飯に行けるのならどこでもいいと浮かれている。しかし私は財布の中身を確認して冷や汗タラり。


あのお店ってカード使えるよね? 料亭なんて行ったことないから、いくら用意すればいいのか全く分からない。


そして仕事を終えた私達は唯の車で料亭に向かったのだけれど、興奮した唯がアクセル全開で飛ばすものだから、約束の時間より二十分も早く着いてしまった。


仕方なく料亭の駐車場の隅に車を止め、予約の時間になるまで車の中で待っているとチラホラ車が駐車場に入ってくる。しかしどれもこれも高級車で軽自動車で来ているのは私達くらいだ。


「ねぇ、唯、なんか場違いな所に来ちゃったって感じだね」

「うん……あ、それより、並木主任には、紬が無理やり私を誘ったってことにしといてよ。図々しい女だって思われたくないら」


苦笑いを浮かべ頷くと、一台の黒塗りの車が駐車場に入ってきた。


品川ナンバーだ。東京から来る人も居るんだ……


その車から降りてきたのは、ブロンドヘアの背の高い外国人男性とブラックスーツを着たスレンダーな女性。そして……


「ちょっと、あの外人さんと一緒に歩いているの、山辺部長じゃない?」

「本当だ。ってことは、あの外人さんはウチの会社のお客さん?」