「あの、お借りたジャージ、お返しします」
小脇に抱えていたショップのビニールバックを差し出しお礼を言うと、気になっていたことをそれとなく聞いてみた。
「このジャージ、並木主任は自分の物だと言ってましたが、レディースのSサイズですよ。並木主任には小さ過ぎません?」
「当たり前だ。俺が着るワケないだろ? これは東京の知り合いが遊びに来た時、パジャマ代わりに着ていたジャージだ。
俺の部屋に忘れていったんで送り返そうと思って車に乗せていたんだが、わざわざ送ってもらわなくてもいいってラインがきてな。で、そのまま車に乗せっぱなしになっていたんだ」
なるほど。そういうことか……でも、パジャマ代わりってことは、部屋に泊まったってことで、泊まったってことは……つまり、そういうことだ。
もう間違いない。並木主任には彼女が居る。
疑惑が確信に変わりスッキリしたのと同時に胸の奥がチクリと痛んだ……ような気がした。
並木主任と別れて長い廊下を社食に向かって歩いている間も、そんな自分の気持ちに困惑し、何度もため息が漏れる。
憂鬱な気持ちのまま社食のドアを開け、いつもの窓際の席に目をやると唯が文庫本を読みながらカレーを食べているのが見えた。なので私もビーフカレーを注文し、読書に夢中になってる唯の肩を叩いて対面に腰を下ろす。
すると文庫本から視線を上げた唯が、昼休みになったのと同時に私が慌ててオフィスを出て行った理由を興味深げに聞いてくる。
その質問は想定内だったので、さっきの並木主任との会話を話し、ついでに私は可愛げのない女なんだろうかと聞いてみた。