「あぁ、そのことか。お前が残念そうにボロボロになった靴を眺めていたから東京に行ったついでに靴屋を覗いてきたんだ。で、お前が履いていたのとよく似たのがあったんで買ってきたんだが……」


そう言った並木主任の視線が一瞬、私の足元に移る。


「……気に入らなかったみたいだな」

「えっ? あっ、違います。とても可愛くて素敵なヒールでした。でも……」

「でも、なんだ?」

「私が履いていたのは、千九百八十円の安物のヒールです。あんな高級ブランドのヒール……とても頂けません」


私としては申し訳ないという気持でそう言ったのに、並木主任は呆れたように「やれやれ」とため息を付く。


「いいか? こういう時は素直に受け取って『嬉しい』って言っときゃいいんだよ。その方が可愛げがある。それに、あの靴を返されても邪魔になるだけだ」

「あ……」


言われてみればそうだ。確かにヒールを返されても男性の並木主任は困るよね。でも、それなら高級ブランドのヒールじゃなく、数千円のモノにして欲しかった。


その思いを伝えると、並木主任は「そんなに気が引けるのなら、今度飯でもおごってくれ」と言う。


「……ご飯ですか?」

「そっ、旨い飯。楽しみにしてるからな」


ニッコリ笑った並木主任が私の頭をポンと叩き、まだ仕事が残っているからと研究室に戻ろうとする。が、もうひとつ用事があったことを思い出し、慌てて彼を引き止めた。