――月曜日、バイオコーポレーション……


私は時々キーボードを打つ手を止め、パソコン画面右下の時計をチェックしていた。


昼休みまで後数分。ヤキモキしながら再びキーボードを打ち出す。


私が昼休みを待ちわびていたのは、一刻も早く並木主任にあのヒールを返すと伝えなくてはと思っていたから。


ようやく十二時になり、誰よりも早く立ち上がると並木主任が居る三階の成分研究部へと急ぐ。


研究室内は研究員以外、立ち入り禁止。助手である検査事務部の社員でも許可なく入室はできかない。が、研究室は硝子張りになっているから中の様子は容易に確認できる。


硝子にへばり付き目を凝らして並木主任を探していると、白衣を着た数人の研究員の中に彼の姿を見つけた。すかさず両手を大きく振って存在をアピール。


すると並木主任が私に気付き、近付いてきた。硝子越しに整った綺麗な顔を見上げ「お話しがあります」と声を張り上げるが、当然のことながら私の声は彼には届かない。てなワケで、並木主任が廊下まで出て来てくれた。


「俺に会いに来てくれるとは、嬉しいね」


前髪をかき上げながら微笑む彼に不覚にもドキッとしてしまう。が、そんな自分の感情を悟られたくなくてつい、つっけんどんな言い方をしてしまった。


「べ、別に好き好んで会いに来たワケじゃありません。私の家の前に置いてあったヒールのことで……あれ、並木主任ですよね?」