「……それで、この赤飯?」
「そうよ。紬に初めて彼氏ができたんだもの。こんなおめでたいことはないわ。母さん嬉しくて奮発しちゃった」
なるほどね。確かに着眼点は悪くない。いつものシャンプーと香りが違うってだけで、そこまで妄想を膨らませた翔馬を褒めてやろう。でも、残念ながらその推理は外れている。
赤飯まで炊いて喜んでくれているふたりには申し訳ないが、ここはちゃんと本当のことを説明しなくては……
「あのね、それ、完全に的外れ。私、彼氏なんて居ないから」
しかし私が事情を説明しても、ふたりは全く信じようとしない。
「仕事で山登りしをして泥だらけになったから温泉に行った? なんだそれ? 嘘付を付くなら、もっと上手な嘘を付けよ」
「いや、だから本当のことだって」
すると母親が徐に光沢のある白いペーパーバックをダイニングテーブルの上に置く。
「じゃあ、これはどう説明するつもり?」
なんのことかと思いつつ、ペーパーバックの中に入っていた箱を開けると、オフホワイトの可愛いヒールが出てきた。
母親が言うには、買い物から帰って来ると玄関の前にこれが置いてあったそうで、"昨日は楽しかった"って書かれた付箋が張り付けてあったと。
「あっ……」
真っ先に頭に浮かんだのは、温泉でボロボロになった私のヒールを眺めていた並木主任の顔。
まさか、責任を感じて新しいヒールを買って届けてくれたの?