―――……「んんっ……」
どうやら私はまた眠ってしまったようで、一階から私の名を呼ぶ母親の声で目が覚めた。
「わっ、もう夕方の六時じゃない。私ったら、どんだけ疲れてるのよ」
一日の殆どを寝て過ごした自分に呆れながら、まだ筋肉痛が残る体を引きずり居間に行くと、キッチンの方から「飯だぞ」と翔馬の声がする。
反射的に振り返った先には、いつものダイニングテーブル。でもその上には、近年、お目に掛かったことがない豪華な料理が並んでいて、母親と翔馬が満面の笑みで私を見つめている。
「えっ? どうしたの? 今日は何かのお祝い?」
お茶碗にてんこ盛りになってる赤飯を指さし訊ねると、母親と翔馬が顔を見合わせ「おめでとう!」って叫びながら突然手を叩き出す。
置いてけぼり状態のまま嬉しそうに手を叩いているふたりを眺めること数秒。今度は母親が変なことを言い出した。
「どうして言ってくれなかったのよ。翔馬に聞いて驚いたわ」
「翔馬に……何を?」
探るような視線を翔馬に向けるとニヤニヤしながら「姉貴、男ができたんだろ?」って言うからぶったまげてしまった。
「姉貴が遅くなる時は必ず電話してくるのに、昨夜は連絡がなかった。だから変だなって思っていたら……やっぱり、そうだったんだな」
「やっぱりって?」
「今日、姉貴が起きてきて俺の体を引っ張った時、姉貴の髪、ウチのシャンプーと違う匂いがした。それってさ、ウチじゃない所で風呂に入ったってことだろ?」
あ、そうか……昨日は温泉に行ったから、洗い場にあった備え付けのシャンプー使ったんだ。