「え? なんだって?」

記載ミスの商品を全回収し、マスコミにも叩かれることなく事なきを得た。と思っていたある日のことだった。

「父さんの友人だから、なんとかしてやりたいんだが……買収という手ならなんとかなるかと思ってな」

本社で会議がありそのついでに社長室へ行くと、父が悩ましげにしていた。

聞くところによると、先日、酒井凜子の父であり“SAKAI”社長が父のもとへ相談に来たという。その内容は「SAKAIを友好的買収できないか」というまさかの申し出だったのだ。

SAKAIは中小企業で社員数も百人程度の規模の小さな会社だ。負債を抱え、経営が傾いているらしく、社長自ら社員を守るための打開策をうちにもってきた。しかし、すんなり買収できないのは、SAKAIがすでに多額の負債を抱えているということが問題だった。そんなマイナスにしかならない会社を父の情だけで買収するなど言語道断だと、上層部の連中が猛反対しているのだ。