白髪交じりの口髭を撫でた国王は、「やっと求婚者が現れたのか?」と勘違いの推測をする。

その目は少し嬉しそうであったが、ラナが真顔で首を横に振ると、疲れたような顔つきになり、「わかった」と渋々の様子で了承してくれた。


「手短にな。わしの執務室へ行こう」


いつの間にか、父の後ろには近侍が控えている。

「陛下、お茶をお持ち致しましょうか?」と彼が問いかければ、国王は「無用だ。十五分で済ませる」とそれを断っていた。

ラナの話が、重要なものだと信じていない様子であった。


それから数分して、国王の執務室には、「なにを馬鹿なことを言い出すんだ!」という怒声が響いていた。

古書がぎっしり詰まった書棚に囲まれた中に、大きな執務机と、休憩用のテーブルセットが置かれている。

ひとり掛けの布張り椅子に座している国王は、向かいの長椅子に腰掛けているラナの発言に顔をしかめていた。


「お前が王位を継承するなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。誰かに何かを吹き込まれたのか? 真剣に取り合うな」