それから一行は宿を出ると、まっすぐに燻製工場へ向かった。

工場は石積みの壁の頑丈そうな平屋の建物で、床面積は民家が二十棟ほども入りそうなほどに広い。

敷地の周囲には鉄柵が張り巡らされ、東側にある門以外の場所からは、立ち入りできない様子であった。


開放されている門の前には、頬に刀傷のある若い男がひとり、暇そうに木箱に座っている。

門番と思しき彼に近づいて、イワノフが声をかけた。


「工場見学をさせてもらいたいんじゃが、責任者に取り次いでもらえんかの」

「見学……? ベーコンを買いに来たんじゃねぇのか?」


男が問い返したところをみると、これまでそういった来訪者はいなかったのだろう。

木箱から立ち上がった門番は、イワノフとその後ろの四人を、不審者を見るような目でじろじろと眺めている。

それでイワノフが懐から銀貨を一枚取り出し、男に握らせると、好々爺のごとき笑顔を作って言った。


「わしらは遠い田舎町から来た食肉加工業者じゃ。後ろの者たちはわしの工場の従業員。この町のベーコンの評判を聞いて、燻製技術を学ぼうと遥々やってきたんじゃよ。取り次ぎを頼みます」