顎髭をしごきつつ、皆の報告を聞いているのはイワノフだ。

丸眼鏡の奥の瞳を鋭くした賢者は、「わしは工場近くの水質と土壌を調べておった」と話し出した。

試薬を使ってイワノフが調査した結果、ヤバメゾール、ハダアレルニウム、ナン化ワルイン酸が検出されたという。

その三つを合成すれば、幻覚興奮作用のあるハイジンテキシンという劇薬が作れるらしい。


イワノフの説明に目を見開いたラナは、思わず立ち上がって声を荒げた。

「中央政府が禁止している麻薬じゃない!」


外に聞こえると危惧したカイザーが、ラナを抱えるようにして口を手で塞ぐと、声を低くして報告を追加する。

「燻製工場の経営者は、町一番の豪商イブシゲル。傲慢な嫌われ者らしい。工場にはーー」


患者の分布図を作成していた時に町人から聞いた話では、燻製工場には人相の悪い男たちが出入りし、煙突からは夜中まで煙が上がっているそうだ。

それはカイザーとグリゴリーが、その目で確かめ、裏付けた情報でもある。