鼻で笑う彼にムッとしつつも、頬を赤らめたラナは負けじと言い返す。


「う、うるさいわね。カイザーだって工場と皮膚病の関係性に気づいていなかったくせに」

「お前と一緒にするな。俺は食事中から既にわかっていた」

「嘘だよ。だって私と、カツレツの最後のひと切れを巡って取り合ったじゃない。かっこつけてるのはどっちなのよ」


始まったふたりの口喧嘩を、いつものことだと受け流し、イワノフたち三人は平然と北へ向けて歩き出す。

その後ろをついていくラナとカイザーは、「アホが」「アホって言う方がアホなんだよ!」と子供のような言い争いを続けている。

なにぶん負けず嫌いのふたりなので、まだしばらくは、口論を楽しむつもりでいるようだ。


それから二日後の正午過ぎ。

北側の大通り沿いの宿屋に宿泊しているラナたちは、イワノフの部屋に集まってヒソヒソと密談中である。

二階の窓から見えるのは、南側に比べて質を落とした簡素な住宅街と、町外れに立つ大きな燻製工場。

青空にそびえる二本の煙突からは、モクモクと灰色の煙が吐き出されていた。