「凄いです!尊敬します!」
「一応やってるからね、ずっと」
「それでも!やっぱり凄い……」

私が興奮していると
彼は少し驚いた顔をした。
不思議だったけど
それも嬉しかった。

「……皆に聞かせてあげたいなぁ」
「ていうか、こんなのよく聞かない?」
「でもラフマニノフって難しいですよね?そんなのも弾けるなんてカッコいいと思いますよ!絶対皆も驚かれますよね!」

派手な私とは違った。
大人しいままだった。

戻ろうって思ってたのに
何だか気持ちが素直になると
私はこのままで笑っていた。

敬語なんか使ったことないのに
そんなのカッコ悪いと思ってたのに。

「……誰も驚かないよ。アンタみたいに」
「へ?」
「……別に。もう一曲弾くね?」
「やったぁ!」

彼も少し笑っていた。
会ったばかりなのに、通じ合えた気がした。
こんなに笑ったのは久しぶりで
本当に、本当に嬉しかった。

ヴェートーヴェン第七番。
難しい曲やマイナーな曲。
彼はそんなものさえこなした。

素敵だった。