総長さんが甘やかしてくる③



目に見えているものがすべてではないことくらい、理解しているつもりだった。


それでも。


わたしの大好きな人が、

わたしの大好きな人を傷つける理由が知りたいんだ。






総長さんが甘やかしてくる③
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登場人物紹介


【黒梦(クロム)】


□夕烏(ユウ)

本作のヒロイン
世間を騒がせる失踪少女
黒梦の姫

幻をはじめ、
周りの人々から甘やかされる。


□幻(ゲン)

黒梦の総長

クールで鬼と呼ばれるも
チューブ型のアイスが日課で
夕烏を溺愛している


□燐(リン)

天使のような可愛い容姿だが
自由奔放かつ利己主義なサイコ

派手髪でファッショナブル
手、口、耳、舌などに
ピアスを多数あけている


□愁(シュウ)

昼は超のつく優等生
裏の顔は総長の右腕

最近の悩みは
犬猿の仲だった燐が
朝起きたらなぜか隣にいること


□ハゲとヒゲ

にこにこマートの駐車場で
主にたむろしている
見た目はイカツいが
幻や愁を慕う心優しい不良



【羅刹(ラセツ)】


□木良(キラ)

羅刹総長
無気力な“眠りの王子様”

アイマスクを常に所持しており
どこでもすぐに眠るが眠りは浅い

とても頭が切れ他人の欲望を利用し
静かに破滅に追い込む死神


□霞(かすみ)
羅刹の姫
白金のロングヘア

幻とは知り合いのようだが……?



【他.】


□サトル

夕烏の勤め先のパン職人
童顔でチビだが強えやつ

口は悪いものの
夕烏のことを愛弟子として
可愛がっている。

幻を殴った。


□スミレ

夕烏の勤め先のオーナー
本名、韮崎蓮(にらさき れん)

オネエ口調の謎多き綺麗なお兄さん
軍人並みに強く地声はイケボ


□宗吾(ソウゴ)

夕烏と暮らしている親戚
品行方正だが裏の顔がある



and more...




■鳥籠の中のお前を


Side.宗吾




家に帰ると、優吾(ユウゴ)がもの言いたげな目で俺を見てきた。


「お、おかえりなさい。兄さん」


いつもビクビクして他人の顔色ばかり伺っている弟。


悪いが優吾。


――俺は、オマエとは違う。


「いつも言っているだろう。言いたいことがあるならハッキリ言えと」


お前のように“敷かれたレール”など進むものか。

絶対に。


「……どこに、行ってたの」


気弱な優吾が自らの意志で俺に探りを入れてくるなんて考えられない。


おおかた、あの女から頼まれたのだろう。

『宗吾から事情を聞き出しなさい』とでも。


「お前には関係がない」

「母さん心配してたよ。テスト期間中なのに遅いから」


こうなると、なにかアリバイが必要だな。


「女から勉強に誘われてな」

「女の子……」

「もちろん勉強なんてせずに抱き合ってたよ。お前から上手く言い訳しておいてくれ」


「……っ、わかった。兄さん」


これでいい。

俺の話をまんまと信じ、戸惑う優吾は

俺と違って純なやつだ。


こう言っておけば、これ以上は掘り下げてくることはない。


「それで? あの女は怠けているのか」

「な、怠けてるって。そんな言い方しなくても。母さんは……あの子がいなくなって。心労も重なって――」

「黙れ」

「っ、」


細い手首を掴むとビクリと身体を震わせた優吾。


「相変わらず女みたいな顔をしているな」


俺を見上げる黒目がちな瞳が揺れている。

こんな弱々しい生き物と同じ血が流れていると思うと虫唾が走った。


「お前はあの女の犬だが。俺の犬でもあるんだ」

「わかってるよ、兄さん」


あっさり俺に屈服するような弟

……いらないんだよ。


優吾には言わない。

言うわけがない。
 

夕烏を見つけ出したということを。


なぜなら、俺は――。


「兄さん。ご飯は?」

「部屋でとる。持ってこさせろ」


自室に向かいながら思い出すのはもちろん、



『……兄さん。なんでここに』


――夕烏だ。


探したよ、夕烏。


やっと見つけた。


テレビで流れる映像などではなく。

紛れもなくホンモノの夕烏に会えた。


俺の、夕烏に。


【おばさんの指示ですか】


あの女の?

そんなわけあるか。


あの女はメディアからの取材で

『一刻もはやく夕烏に会いたい』
などと、ほざいているが。

あんなのは、まったくの嘘だ。


夕烏に消えてくれと思っていやがる。


このまま失踪し続けるより、事件にでも巻き込まれ夕烏が遺体で発見された方が、あの女は喜ぶだろう。


なにせ家も金も自分のものにしたいんだからな。


お前が家出したと世間に知られたら

お前は、無事ではいられない。


元々狂っているあの女が、キレて、何をしでかすかわからない。


だから、俺が。

俺の力で。


お前を、探し出したんだ。


あの女に見つかる前に。

先に見つけてやったんだ。


なあ、夕烏。

お前は知らないだろう。


鳥籠の中に、いるお前を。


俺がどれだけ羽ばたかせてやりたいかを。


お前が、生きていた。

無事だった。


それを確認できただけで俺は、足を運んだ価値があったと思う。


腕のいい探偵を雇ってよかったと思う。


探偵には警察に通報しないことと、俺以外の人間には夕烏の居場所を教えないことを約束させた。

正直なところ、コツコツと貯めてきた金をここではたくのは痛手だった。


俺は、あの女のように、この家の金を浪費できるわけじゃないから。


小遣いの使いみちは慎重に選んできたし、決めていく必要があるが。


夕烏の命には、かえられない。


たった数日とはいえ


夕烏が、どこで、なにをしているか

わからないまま眠れない夜を過ごした。


その不安が解消されたなら、安いもの。


背に腹はかえられない。


俺は、夕烏を、誰よりも心配している。


たとえボロボロに傷つけられていても。

手足がなくなっていても。


それでも俺はお前に生きていて欲しいと願っていた。