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「あの依頼、進めなくていいんですか」
「どの依頼だ」
某探偵事務所には、
今日も小さなことから大きなことまで案件が持ち込まれていた。
中でも、ここ最近
もっとも助手を驚かせた依頼は――
「失踪した少女が暴走族に救われたなんて。なにがあるかわからないものですね」
あの事件の関係者からの、暴露。
「進めるもなにも。依頼人には頼まれた通り、居場所や関係者などの情報は伝えたんだ。スピードも正確さも十分だったろ」
「さすがは元暴走族。いや、元総長。昔のツテがあったからこそ、その界隈の情報に強いんですよね?」
「なんにせよ。ここから先は、俺の出る幕でもないだろ」
「本当に警察に言わないつもりですか。……真実を」
「もがけばいいさ」
「まったく。センセイは」
少女は、わかっていた。
探偵が無責任にそんなことを言ってはいない、ということ。
出る幕でもないと言いながら見守っていることを。
「しかしセンセイ。いくらなんでも依頼料、高くないですか? 相手は高校生ですよ。そりゃあ、ヤバい案件で。トップシークレットだから。一歩間違えればセンセイがどうにかなっちゃうリスクを大いに背負ってますが」
「素子(もとこ)」
探偵が、助手の腕を引き膝の上に座らせる。
「な、なんですか」
「金なんて。うまくまとまったら。返してやってもいいんだ」
「は?」
「度量を知りたかった」
「……まさか。試したんですか」
呆れ顔を見せる、助手。
「金をはたいても探し出したい、命には代えられない――という気持ちが表れていた」
「相当追い詰められた顔してましたもんね。妹さんがいなくなって」
「救われるべきなのは。一体誰なんだろうな」
「はい?」
「少なくとも失踪少女は。前に進めたらしい」
「……センセイ。もしかして。見守るどころか、お節介、焼く気では。というか。既に個人で関わっちゃったりなんかして――」
「さて。なんのことだか」
「とぼけても無駄です」
「まあ。お前もう共犯だけどな?」
「……っ!」
探偵が、愛おしそうに助手を見つめ頭を撫でる。
「常識にとらわれて大切なもん失うくらいなら。そんな常識、捨ててやる」
総長さんが甘やかしてくる③/完
■あとがき
こんにちは、犬甘です。
『総長さんが甘やかしてくる③』を
読んでくださり、ありがとうございます。
はやいもので
シリーズ三作目が完結しました。
いや、はやくはないですね……?
①②とスピード更新できたのですが
③は、完結までに時間がかかりました。
それでも一段落つけることができたのは
更新中、皆様からの感想に
何度も励まされたからです。
本当に本当にパワーをもらいました。
ありがとうございます。
さて、今作では
描きたかった幻の過去編に触れ
新キャラたちも
動かせたかなと思います。
(あのキャラってあんな性格だったのかーと知ってもらえたかなと)
羅刹編がメインとなった③ですが
今後は、
夕烏と幻が更に仲を深める模様や
ヤンデレ兄貴(義理)の宗吾も
出せたらいいなと思います。
私の作品で一番長い作品になりますが
ここまで更新を追いかけてくださり
ありがとうございます。
ストーリーとしましては
文字数の割にそんなに進んでいないのですが
以前、リクエストをいただき
連載を決めてから
最初で最後の続モノ(暴走族がメイン)
を書く気でここまでやってきたので
最後まで丁寧に書き上げたいです。
④を連載スタートさせたときには
黒梦のみんなや愉快な仲間たちに
会いにきてもらえると嬉しいです。
2019.8.27 犬甘