私ももうこの美術館に来てから3年目。そろそろ仕事を仕切れるようにならないといけない。

メインを担当するのは不安もあるけれど、仕事を任せてもらえるというのは自分への自信にも繋がるし、久しぶりに心の高揚を感じた。

『無名の芸術家たち』のスケジュールと簡単に書かれた内容説明の紙を館長から手渡される。

興味のそそられるタイトルだ。一体どんな人達がどんな絵を描いているんだろう。

「この絵画展は初めて開催されるが、無名とはいえ実は著名な人の作品も数点並んでいるらしいよ。本名は完全に伏せているから搬入時も作者本人は来ない。その秘密主義的なコンセプトは徹底していて、敢えてうちみたいな隠れ家的美術館に白羽の矢が立ったってわけだ。なかなか興味深いな」

「おもしろそうですね」

館長からの話を聞きながら胸が高鳴っていた。

私は早速デスクに戻り、絵画作品の一覧と内容を熟読しHPに掲載する宣伝文句を考える。

「作品の配置はどうするんですか?作家さん達は来られないのであれば」

「主催者のアート雑誌『まほろば』さんの編集部の人達が来て仕切ってくれるみたいだ。恐らくこちら側にも展示する際にはアドバイスを求めてくるだろうから和桜ちゃんのセンスの見せ所だよ」

「そうなんですね!それは、責任重大です」

そう言いながら苦笑するも、内心ワクワクしていた。

絵の配置によって絵画展の雰囲気はがらっと変わる。

来週の搬入が今から待ち遠しい。

「和桜ちゃんはセンスいいから大丈夫よ」

植村さんが私の方に顔を向けてピースサインをした。

彼女は学芸員の資格を持ち、この美術館には十年もいる大ベテラン。

植村さんが担当した美術展はいつも大盛況だった。

宣伝文も上手だし、ちょっとした配置の工夫で展示物が一層引き立つ。

思わず足を留めたくなるような絵を、要所要所タイミングよく配置する天才だ。

「またアドバイスよろしくお願いします」

私はペコリと彼女に頭を下げ、落ちてきた前髪を掻き上げる。

事務所の窓から見える空がとても青かった。