「わ、わかりました」

私がそう言うと先生はほっとした様な顔をした。

「ありがとう、宮下さん。もうすぐ1年生も入ってくるだろうし、よろしくね」

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あぁ...なんで引き受けてしまったのだろう...
目立つことなんて大嫌いなのに。
自己嫌悪してても仕方ない。
とにかく今は美術室を出て帰らないと。

「あれ、この絵...」

ふと美術室のドアに目をやると、見たことの無い絵がかけられていた。

「わ、天使だ...」

力強い羽が特徴的で、でも触れたら壊れてしまいそうな繊細さを持ったなんとも不思議な絵。
残念ながら私はこんな素敵な絵は描けないし、今天使の絵を描いている部員もいない。

誰かが美術の授業で描いたのかな。
卒業生の絵かな。

そんな事を思っていると、カタンと私の後ろで音がした。

「なに!?」

思いっきり振り返ると、そこには眠そうに欠伸をした男の子がいた。

「ん...誰?」

それは私が聞きたい。
さっきまでは誰もいなかったはず。

「ゆ、幽霊?」
「なわけないでしょ。本気で言ってる?」

なんだろう、すごくモヤッとするな。

「君が寝てたから気づかなかっただけだって。」
「...」
「あ。もしかしてその絵見てた?」

男の子が指さすのはあの天使の絵。

「見てましたけど...」
「それ、俺が描いたんだ。」

は??
この素敵な絵を?この男の子が...?

「なに?信じらんないの?」
「ご、ごめんなさい。」

私がそう言うと男の子はでっかいため息をついて私を直視した。
私はその黒目がちな目を見つめ返すことはできなかった。

「小春 雪。俺の名前。」
「小春くん...」
「雪でいい。俺の名前、帰ったら調べてみてよ」
「なんで?」

「そしたら俺が描いた絵だって信じるから。」