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あの日、会社で遥に会って以来、会う事どころか一度も連絡もないまま……今日で十日が過ぎた。


元々なかった食欲は、今では飲み物しか受け付けなくて。

……このままじゃ、ダメだ、と。
分かってはいる。分かってはいるけれど、一人だとついつい食事を後回しにしてしまい、その分私は仕事に没頭していた。



───遥の事、今後の事を考えたくない。その一心で。



逃げても状況は変わらない。それは勿論分かっているけれど、今は自分の心の傷をこれ以上抉りたくなくて、少しでも違う事で頭をいっぱいにしたかった。

私にとっては遥が何もかも初めての相手で、この今の状態をどうやって乗り切ればいいのか分からなくて、このままだと自分が壊れてしまいそうで怖いと思ったからだ。


その分周りには気付かれないよう、必死でいつもの自分を装った。だけど優香だけは私の様子がおかしいとすぐに分かったようで、それでも私が何も話そうとしないので、人の感情に敏感な彼女は黙って私の体調だけを心配してくれていた。





───こうやって、遥の事がどんどん薄れて行けば良い。





ぼんやりとそんな事を思いながら、昔よく、通っていた駅への道をゆっくり歩く。

実家から会社へ通っていた頃は、毎日歩いていた道。
あの頃は、ただただ仕事に慣れる事に毎日必死で、今とは違った意味で仕事に没頭していた。

それでも、毎日楽しくて。

あの頃と景色は何も変わってはいないのに、私の心だけが大きく変わってしまったようで、やるせない気持ちになった。