急いでエレベーターフロアへ向かったけれど、一足遅かったのか一台のエレベーターは既に下へと動いていて。

慌ててもう一台のエレベーターのボタンを押す。

運良く下りて来たエレベーターへと急いで飛び乗り、間に合って欲しいと祈りながら一階に到着するのをひたすら待った。


エレベーターの扉が開き、降りて必死にロビーに行き交う人々を目を凝らして見ていると──。


───いた……!


見慣れた後ろ姿を見つけて、ギュッと胸が締め付けられる。



────お願い、待って!



……そう、声を掛けたいのに。

もし、声を掛けて、振り向いて、また視線を晒されたら。
もしくはそのまま、無視されてしまったら───。


そんな思いが脳裏を過って、……声が出ない。


遥の後ろ姿を目で追いながら、ポトリと涙が零れ落ちた。

………あんなに、あんなに毎日近くにいたのに。
今は、もう、振り向いてもくれなくて。

遥が遠過ぎて、声も掛ける事が出来ない……。



以前のように、抱きしめて欲しくて、抱きしめ返したくて。


『なっちゃん』と、声を掛けて欲しくて、笑い掛けて欲しくて。



自分から遥の元を離れておきながら、……なんて浅はかな考えだろう。


だけど、───……遥が、好きで好きで、苦しくて。


自分の心が、深い、深い、絶望という名の海の底に沈んでいくような。

そんな感覚に囚われて、目の前が真っ暗になった気がした。