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駅への道を歩きながら、何度も、何度も後ろを振り返る。

遥を振り切りたい一心で走っていたつもりなのに、気が付けば、彼が追って来てくれているのではないかと何度も振り返る自分がいて、その度に段々と歩調も弱くなって行く。


……私、バカだ。


あんな言葉を遥に投げつけておきながら、まだ構ってもらえると、追い掛けてもらえると、どこかで思っていたなんて……無様な自分に笑えてくる。

いつもの遥ならば、絶対に電話やメール、もしくは私を探しに来てくれるから、同じように考えていた自分の自惚れ具合や情けなさに涙がぼたぼたと零れ落ちた。



私が遥にどれだけ甘えていたのか、思い知らされる。



これからの事を考えたいなんて言ってしまったけれど、何も考える気力が湧かないのが現状で。

第一、“これから”なんて、悪い方向に進む事しか思い浮かばない。今となっては、自分が今後どうしたいと思っていたのかも分からなくて。


だけど、こうなって、初めて気付く。


私は、ただ───。

───……遥に嘘をつき続けていて欲しかっただけなのだと。



自分であれだけ嘘をつくなと取り乱しておきながら、矛盾していて笑えるけれど、私はそうしてもらう事で事実を曖昧にしたいと思っていたんだ。


……そう。

完全に遥と向き合う事を避けたいと思っていた自分がいたからこそ、今、遥に事実だと認められて打ちのめされている自分がいるのだ。


根底にあった気持ちを認めた事で、余計に涙が溢れて来た。

夢なら早く覚めて欲しい。そう、やり場のない思いに唇を噛み締めながら、通い慣れた駅へと向かった。