足元に置いていた旅行用の少し大きめなバッグの持ち手をサッと握る。

それを見ていた遥が、ハッと我に返ったように慌てて自分の通勤カバンを放って近付こうとしたので、再度私は大声で「来ないで!」と叫んだ。


「なっちゃん……!違う、話を……」

「もういい!!言い訳なんて聞きたくない!!」


頭に血が上った私は、震える脚を必死で踏ん張り押さえつけ、持ち手を握る手にグッと力を込めた。


「……遥が何を言っても、今は全部嘘に聞こえる。……少し、一人になって今後の事を考えたい」


私の言葉に、遥がクシャリと顔を歪めた。


「考えたいって、何を?何を考えるの?まさか、別れたいとか言い出すつもりじゃないよね?だったらダメだ。別れるなんて許さない。それを考える事も許さない!」


悲痛、その言葉が正に当てはまる表情で、遥が私のバッグを持つ手をグッと握って来た。

頭に血が上っていたのと、遥の言動に恐怖を感じてしまったのもあって、反射的に彼の手を払いのけ、


「触らないで!!!」


と、思い切り叫んだ。

私の声と行動に、一瞬怯んだ遥の隙を狙って私は彼の隣をすり抜ける。

それでも私を追おうとする彼を跳ね除けたくて、振り返り遥をグッと睨み付けた。


「許さないって、何?私は遥の所有物なんかじゃない。“あの時”もそうだった。また、私を閉じ込めて自分の思い通りにしようとするの?もう……十分でしょう?いい加減解放して!!」


そう叫んだ私を、遥が呆然とした表情で見つめていた。

だけど私はそれに構わず、家の外へと飛び出した。