………違う、か。

うん、そうじゃない。遥が気付いてくれないんじゃない。


私が……言わないからだ。


───いつもいつも。
遥が何も言わなくても察してくれていたから。

だから私は、それに甘えていただけで。


言わなきゃ気付かない、なんて───当たり前の事だ。


そんな事も分からなくなるくらい、私は遥に甘えていたんだ。

ゆっくり深呼吸をして、心を落ち着ける。

遥がもうすぐ帰ってくると思うと、やっぱりソワソワと落ち着かないけれど、今日はちゃんと話そう、そう決めたんだから。


先程まで準備していた足元のバッグに視線を落とす。


……遥は、なんて言うんだろうか。


私が一人で出した結論に、彼はまた、私を軟禁するのだろうか。

だけど、あの時とは状況が違う。

今は、“彼女”が側にいるのだ。
そして、その“彼女”も今、遥に向き合おうとしている。

単純に考えて、今までの私に対しての遥の“執着”は、彼女が側にいなかったから。

だとすると、彼女が側にいる今、この間までの彼の私に対する“執着”はなんなのか。


───……同情?


かつて私にもその感情を彼に抱いた記憶はある。
だけど遥の“執着”は、それとは少し違う気がして。そこまで考えて、必死に彼の“執着の意味”に縋りつこうとしている自分が見えて、苦笑いが零れた。



夕日が完全に沈み暗闇に支配されつつある窓の外を、レース越しに見つめながらそんな事をずっと繰り返し考えていると、ガチャリ、と玄関の鍵の音が聞こえてきて、ドキリ、と心臓が大きく跳ねた。