***

沈みゆく太陽を、レースカーテン越しに静かに見つめる。

綺麗なオレンジ色の夕日がどんどん沈んでしまう様子に、私の心も同調するようにどんどん沈んで行く。

このまま暗闇の中に浸かって、抜け出せないんじゃないかって不安に駆られる程、それは深く、底が見えない。


もうすぐ、遥の仕事が終わる時間。


何から話せばいいのかぼんやり考えていると、タイミング良く私の携帯がメールの着信音を告げた。



────遥だ。



携帯を手に取りながら、そろそろ来るだろうとは思っていたけれど、開いたメールの内容があまりにもいつも通り過ぎる事に、悔しくて思わずギュッと携帯を握り締めた。

このまま無視してしまいたい衝動に駆られるけれど、それだとまた優香に迷惑が掛かってしまう。

取り敢えず、用事があったのでそのまま直接家に帰ったという事だけをメールで伝えると、すぐに遥から折り返しの電話が掛かって来た。


………出たくない。


電話はそのまま無視してしまおう、と携帯をテーブルに置くと、一度鳴り止んだ着信音が再度鳴り始める。

このまま無視し続けても、彼の事だ。出るまでは掛け続けるだろうと判断した私は、小さく溜息を吐いて応答をタップした。


「……もしもし」

『なっちゃん?どうしたの?何かあった?』


遥が電話に出た私に、慌てているのか矢継ぎ早に聞いてくる。
だけど、そんな遥の心配する声も、今の私にはフィルターが掛かっているかのように、“本心”からの心配の声に聞こえない。


「……ううん。なんで?」

『……なんか、メールがいつものなっちゃんと違ったから。……大丈夫?すぐ、帰るから』


そう言って、遥は私の返事を聞くとすぐに電話を切った。


携帯を耳から離すと、ポタリと涙が溢れる。


───……こんな些細な私の変化には気付いてくれるのに。



どうして、どうして私が、“不安に思っている事”には気付いてくれないんだろう。