「相良専務のためなら、俺はいつでも動きますよ!これ、連絡頂いていた部屋のカードキーです」

「……助かる。チェックイン前に無理言って悪かったな」


二人のやり取りに、ハッと気付く。
そうだ。確かに本来ならまだ、ホテルにチェックイン出来る時間帯じゃない。

話の内容からして、この男の人はホテルの支配人というところだろうか。


……そんな人にわざわざ頼んでまで、遥は部屋を取っていたの……?


遥の酷い裏切り行為に、怒りなのか焦りなのか悲しみなのか。

訳の分からない感情で、胸がいっぱいになる。


さっきまで二人の前に飛び出して、問い詰めようなんて考えていたのに、まるで形勢逆転されたかのように動けない自分がいて。


「……え、ハルちゃん……?」


そこに更に冬香さんの戸惑いの声まで聞こえて来て、彼女も部屋まで取っているとは思っていなかったのだという事が、声の雰囲気で伝わって来た。




「……冬香、おいで」




遥の優しく冬香さんを呼ぶ声が聞こえた途端、目にブワリと一気に涙が滲んで来る。


───……なんで?


どうして……?


遥を───……信じていたかったのに。


パタパタと走って行く音が聞こえて、思わず私は後ろを振り向いた。

そこには、優しげに冬香さんを見つめる遥と、嬉しそうに彼を見上げる冬香さんの姿があって。


瞬きと一緒に、ポロポロと涙が溢れ落ちた。


上条という男の人と共に歩き出した遥の腕に、冬香さんが自分の腕を絡ませながらふと後ろを振り返る。

泣いている私と目が合った彼女は、驚くそぶりも見せず少しだけ目を細めてまた前を向いた。

そんな彼女の態度に、私の存在は最初から彼女にはバレていたのだと気付かされる。