……遥から、誘ったの───……?



あまりの衝撃に、今一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。

今の今まで、私はてっきり冬香さんから遥を誘ったのだとばかり思っていた。


……だけど、違ったんだ。


一気に感情が昂り過ぎて、口の中がカラカラに乾いて涙さえ出てこない。

突然、奈落の底に突き落とされた気分だ。

冬香さんから誘うのと、遥から誘うのとでは、私の中での理解が大きく変わってくる。

なんだかもう、私の手には負えない事なんじゃないかと呆然としてしまった。


私が一人呆然とする中、二人は会話を続けていたようだけれど何も頭には入ってこなくて。

そんな私の意識を現実に引き戻すかのように、第三者の大きな声が聞こえて来た。


「相良専務!」


今の私の気持ちとは正反対の明るい嬉しそうな声に、少しだけ顔を上げてガラス越しにチラリと後方を見る。

遥達に向かって歩いて来たのは、大柄で仕立ての良さそうなスーツを着こなした若い男だった。


「……上条、久しぶりだな」

「久しぶりじゃないですよ!相良専務がいなくなってから、めちゃくちゃ大変だったんですよ!久々に連絡もらえて、俺がどれだけ嬉しかったか分かります!?」


クッと遥が笑いを零す声が漏れ聞こえる。


「言っておくが、俺はもう専務じゃない。だが、お前の立場を使ってしまって悪かったな」


そう言って楽しそうに笑って話す遥の声に、胸がギュッと苦しくなった。



……今の遥は、まるで別人だ。


私の前では、こんな話し方なんてした事ない。
仕事中の彼を見かけた事もあったけれど、もう少し今より柔らかい話し方だった気がする。

なんだか、一気に遥を遠い人のように感じてしまった。