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やっぱり予想通り、約束の時間よりも早く着いてしまった。

タクシーから降りて、目の前のホテルを見上げる。
ここは確か、相良財閥の傘下に入っているグループ企業のホテルだったはず。

相良財閥直営のホテルだったら、確実にドアマンに止められて私なんかは中に入る事すら出来ないところだった。

それでも大きなホテルに変わりはなくて、緊張しつつも中に入った。

自分の動きがぎこちない事で、不審に思われたりしないだろうかと不安になって、チラリとフロントへと視線を向ける。

綺麗に頭を結い上げたフロントの女性にニコリと微笑まれて、小さくペコリと頭を下げた。


取り敢えず、出入り口が良く見えるロビーの端の方のソファーに、入り口に背を向ける形で腰掛けた。

ホテル内にレストランが併設されているから、そこで待ち合わせているのかもしれない。

レストランで待った方がいいかな、と一瞬悩んだけれど、もし、万が一部屋で待ち合わせの約束をされていたら見過ごしてしまう。

この位置なら入口からは見えにくいので、やっぱりここで待とうと少しだけ後ろを振り返ると、見覚えのあるコートの女性が入ってくるのが見えて、ドキリと心臓が跳ねた。


───冬香さんだ。


バレないように、急いで前を向き俯く。

心臓がバクバクいい過ぎて、全身に嫌な汗をかいてしまい身動きが全く取れない。

それでも様子が気になって少しだけ顔を上げると、目の前のガラス越しに、後ろの冬香さんがこちらに歩いてくるのが見えた。