取り敢えず人目に付かない所、と思いトイレに駆け込む。

個室に入ってドアを閉め、壁に背を預けて心を落ち着かせようと細く息を吐き出した。

それでも心臓は尚もドクドクと早まるばかりで、一向に落ち着かない。

震える手に少し力を込めながら、ゆっくりと携帯のディスプレイをもう一度見た。


……やっぱり、冬香さんで間違いない。


震える指先をそっと画面に乗せ、ゆっくりとスライドさせて文面を表示させてみる。

すると、私の目に飛び込んで来たのは、“文”というより“単語”だった。



【今日 Tホテル 十二時半】



文と呼ぶには乏しい、けれどそれでも十分に内容は理解出来た。

わざわざお昼前であるこの時間に送って来たという事は、今から遥と会う……という事なんだろう。

油断していた。
完全に油断していた。

何も二人が会う約束をするのは、仕事終わりだけではない。

会おうと思えば、遥は営業なのだからある程度の時間の融通は利く。でも、私に内緒で会えばいいのに、何故彼女はわざわざ知らせて来たの……?

彼女の意図が分からなくて、混乱してくる。
この前会った時、彼女は私に隠れてコソコソしたくはないと言った。だから……?

いや、違う。
これはきっと……私に見せつける為だ。
私が仕事でいない時間であれば、遥はちゃんと冬香さんに会いに来るのだという事を証明したいのだ。