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それからの遥は、まるで私をもう二度と離すまいとするかのように、今日までの一週間、私にベッタリで帰りは会社まで迎えに来る始末だ。

当然、あれから残業なんて一度もする事なく、仕事中以外では遥は常に私の側にいる。

そんな彼の態度に絆されてか、いまだに冬香さんの事を聞けずにいた私だったけれど、もうこのまま聞かなくてもいいかな、なんて思っていた、その矢先───。



───お昼前だからか少し騒つくオフィス内で、私の携帯があまり聞きなれない着信音を告げた。



なんの通知音だっけ?と、ふと携帯のディスプレイを見て、ドクン──、と心臓が一際大きく跳ねる。

そこにはショートメールのマークと、『冬香さん』の文字が表示されていて。

今の今まで、私は彼女と会う前の日に番号を交換していた事を忘れていた。

嫌な予感に、指先が急激に冷えて行くのが分かる。
ドクドクドク、と心臓が早鐘のように鳴って、身体が拒否反応を起こしたかのように小刻みに震え、吐気まで襲って来た。

怖い、と思いつつも、小刻みに震える手は携帯を掴んでいて、取り敢えず場所を変えようと私は自分の席から立ち上がった。

あの日から、勿論冬香さんとは連絡なんて一切取っていない。

遥はどうなのか分からなかったけれど、あれだけ私にベッタリなところを見ると、二人で会っていないのは確かだ。

だからきっと、私は油断していた。

そう思っては嫌な予感が思考を占めるのに、冬香さんからの連絡の内容に想像が付かなくて不安で今にも吐きそうだ。