……正直、遥の反応が怖い。

今、この手を振りほどかれたら……私は堪えきれずに泣いてしまうだろう。

自分が掴んでいる遥の袖をジッと見ていると、彼が勢い良く身体ごと後ろを振り向いたので、つい驚いて手を離すと逆にその腕をグッと掴まれた。

反射的に顔を上げると、眉間にシワを寄せた少し苦しそうな表情の遥がいて───。



ハッと息を飲んだ時には、そのままエレベーターの壁へと押し付けられるように、少し荒々しく唇を塞がれていた。


「……んっ!……は、はるっ……」


抵抗するように顔を背けて言葉を紡ぐと、苦しげな表情はそのままに、遥がまっすぐ私を見つめながら少しだけ目を細めた。


「──なっちゃんから俺に、触れて来たんだよ?」


───だからこれが、望みだったんじゃないの?



そう、遥に言われたようで。
ズキリと痛む胸に、目を見開きながら彼の心理を探ろうと瞳を必死で見つめるけれど、結局は何も分からなくて。

エレベーターがゆっくり上がって行くのを身体で感じながら、静かな密室に二人分の呼吸音だけがやけに響いて聞こえた。


……違う。
そうじゃない。こういう事を私は望んでいるわけじゃない。
そう思うのに、衝動的に動いた彼を拒み切る事も出来ない自分がここにいる。

時々私は、遥との間に見えない距離を感じる瞬間があるけれど、それはほんの一瞬で。

だけど今は二人の間に大きなズレが生じて、一瞬だと感じていた距離が、実は大きな溝になっていた事に気付かされた気分だ。